初心でもなく、初志でもなく。最初の気持ちについて。
一条高校に来て6年目になる。ダンス部の顧問になって、同じく6年目。まったく予期せぬ出来事であった。赴任した4月、セミナー前といわれるダンス部の練習場におもむいた。ダンス部との出会いの日である。その日のことをよく憶えている。
練習場といっても、単に校舎と校舎の間のスペース。単にそこで踊っているというだけの場所。十数人のダンス部員がいた。前年まで顧問であった先生に紹介され、部員たちが自販機まえの長椅子をもってきてくれたので、そこにすわってしばらく練習を見学した。引退ライブのオープニングだったか、エンディングだったか、嵐の曲で振り付けをしていた。
長い期間定時制高校の教員をしていたこともあって、クラブ活動に真剣に取り組む生徒の姿勢はすこぶる新鮮であった。ただ定時制高校のときから、そしていまも変わらないが、あまり人が引き受けそうにないような役割を担うことになったな、と感じていた。当時も今も、ストリートダンスを指導できる教員など極めて少数である。技術指導ができなければ、生徒からの信頼は得にくくなるし、成り行き上顧問を引き受けようという教員もまた奇特な存在となる。そこで話がこの俺に舞い降りたということだろう。新しくやってきた事情を何も知らない男に。
30分ほどか、練習を見ていた。そしてそろそろ立ち去ろうとしたとき、部員たちは予測していない行動をとった。
全員でこの俺に「ありがとうございました」と言ったのである。まあ今でこそ普通のことかもしれないが、少し、驚いたし今でも忘れられない。というのは、人間が本当に御礼を心の底から言っている「ありがとうございました」だったからである。少なからず子供たちの機微に敏感でなければならない職業ではあるので、それはわかる。そしてのちのちもっとわかるようになる。
自分たちのダンスを真剣に、本気で見てくれる大人に出会ってなかったのだ(出会う確率は限りなくゼロに近いが)。彼らはだから心の底からの言葉を発することが出来たし、「ありがとうございました」というありきたりで単純な言葉が俺の心にもしっかりと届くことになった。
必要とされていない部活。認められていないダンス部。もっと辛辣な言葉で表現されることもあった。しばらくしてそんなことも知るようになり、この日のこの言葉の重みも知るようになる。
これが最初の気持ち。この日が今のダンス部の最初の日であり、ここから始まっている。この場所で始まり、この場所で続いている。
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